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「やっぱり、マージョリー様やアリス様のような関係がいいわよね。リヒャルトを皆で…」
「俺が、なんです?」
「ひゃッ!!」
ビクッと身を竦め、視界に入っていた人の影がリヒャルトだと確認して、やっと、ミレーユは身体の硬直を解くと。
「リ、ヒャルト!もう…驚かさないでよ……そのまま息が止まっちゃうかと思ったわよ」
「何度か扉を叩いて、声をかけたんですが、返事がなかったので、心配になって……それより、こんな時間まで起きているなんて、どうしたんですか?」
「えっ?」
ミレーユはリヒャルトの言葉が、僅かに首を傾げながら、テーブルの上の置時計に目をやった。
確かに、もう12時を回っている。
「あれ、もうこんな時間って、も、もしかして、うるさかった?」
悶々と考えているうちに、リヒャルトの部屋まで届くほどの音でも立てていたのだろうか、とミレーユは眉を曇らせた。
「そうじゃありませんよ。いつもなら寝ている時間なのに、明かりがついていたから、ロジオンが心配になって、俺を呼びにきたんですよ」
「えッ!そうなの。ご、ごめんなさい!」
ミレーユは慌てて頭を下げ、謝った。
リヒャルトのために、と色々考えていたのに、これでは本末転倒、どころか、マイナスもマイナス、失態もいいところだ。
ミレーユは小さく息を吐いて、項垂れる。
「疲れてるのに、起こしちゃって……本当に、ごめんなさい」
「そんなことより、どうしたんですか?」
「え、それは、色々考えていたら、時間を忘れて……」
「なにを考えていたんです?」
リヒャルトの顔が、さっきよりも近くなったような気がして、反射的に後退る。
「あなたが考えごとをするときは、危険なんですよ」
そう言いながら、リヒャルトの手が伸びてきて、そっと、ミレーユの手を掴む。
そして、優しく、包まれて。
ミレーユはビクッと身を竦ませた。
「あ、あの、ほんと、なんでもないのよ。だ、だから…」
リヒャルトの大きくて、温かい手の感触に、心臓が、うるさいほど踊って、熱が上がってくる。
それが一層恥かしくて、ミレーユは一歩下がって、リヒャルトの手の中から、自分の手を引き抜こうと試みる。が、瞬間、離さないというように、リヒャルトの手に力が入る。
「あ、あなたは、もう部屋に帰って。ほら、明日は大切な夜会でしょ。国中の貴族が集まるって聞いたわ。大公殿下が寝不足じゃ、困るでしょ」
「そうですね。たしかに寝不足は困りますね」
「そうでしょ」
「明日は、皆さんにあなたを紹介してまわらなければいけないですし。うっかり、あなたの寝顔など見られた日には、後悔しても仕切れない」
「え、明日は、リヒャルトに近づかないけど」
「……それは、どういうことですか」
「ルドヴィックが、あなたには明日、会場に来た令嬢の皆さんの相手をしなきゃいけないからって。私が近づいちゃったら、他の令嬢に失礼だって。皆さんとダンスをしなきゃいけないんでしょ。大公って体力勝負なのね。って、そうよ、ダンスをしなきゃいけないのよ!!早く寝なきゃ」
ミレーユは今また自分の失態に気づき、強引にリヒャルトの手から自分の手を引っこ抜くと、彼の背に回り、その背を押した。
「早く休まなきゃ、最後までもたないわよ!!ダンスって、あきらかに、男性の方が体力使いそうだし」
そう言いながら、ミレーユはぐいぐいとリヒャルトの背を押す。
「ちょ、ミレーユ、待ってください」
「ダメよ。少しでも早く休まないと。私もすぐ寝るから。居眠りなんかして、あなたに迷惑をかけないから安心して」
「違います!」
いつにない、リヒャルトの強い声に、ミレーユは驚いて、リヒャルトの背を押していた手を離す。同時に、リヒャルトはミレーユに向き直って、彼女の両肩に手を置いた。
「待って、俺の話も聞いてください」
「わ、わかったわ」
頷いて、そう返事をするミレーユに、リヒャルトは、では、座って話しましょう、と微笑んで、ソファへと促した。
ゆったりとしたソファにリヒャルトが腰掛ける。ミレーユもその隣りに腰を下ろそうとして、刹那、リヒャルトの腕が延びきて、抵抗する間もなく、引かれるまま、彼の膝の上に、腰掛けることとなる。
「リ、ヒャルト!」
突然のことに、ミレーユはうろたえ、悲鳴にも近い声で彼の名を呼んだ。
「は、話をするんでしょ。これじゃ、話なんて」
「できますよ。ほら、こうやって」
言いながら、リヒャルトの腕がミレーユの脚を持ち上げ、抱き上げるような格好になる。自然、リヒャルトの胸と顔が近づいて。
「やっ!って…待っ、って…」
静止する言葉も絶え絶えに、ミレーユは、リヒャルトの胸に手をついて、離れようと試みた、がビクともしないところか、腰に添えられていたはずのリヒャルトの腕が、肩を抱き、そのままその胸に抱き寄せられた。
To be continued
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長くなってしまったので、今日はここまでにします(苦笑)
当初はもっと短い話だったのに、鈍感で、斜め上の思考の持ち主のミレーユなら、
とか思っていたら、長くなってしまいました。
それに、片思いだったころのリヒャルトだったら、苦笑しながら手を離したでしょうが、
今のリヒャルトは容赦ないから(笑)
たとえ、エドゥアルトとの約束があっても、そこはそれ、臨機応変(←都合のいい言葉だな)
ということで。
本当は、膝に乗せたりすることもダメだったんだよな~と今更気づいた。
ま、いっか。(あはっ)